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#twnovel(21~40)


21.

俺は刑事。時間泥棒専門になって何年になるかもう分らねぇ。あいつとの鬼ごっこが始まった日からかもしれない。だがそれも今夜で終わり。寝る間を惜しんで張り込んだ甲斐があったぜ。さあ大人しくお縄につけ!


奴の名は怪盗Twitter。世界を股に掛ける、神出鬼没の時間泥棒。


22.

車のボンネット代わりにトランクをノックしてみた。コンコン、誰かいますか。コンコン、いたら返事してください。コンコン、にゃあ。猫にしては下手な鳴き声。


中には勝気そうな黒猫が、僕を睨めつけ威嚇する。プリン買うまで許すまじ。そんなご無体な。


23.

彼から海苔弁の匂いがした。ほかほかご飯の上に乗った、しおしおの海苔。早弁するような不良くんだったろうかと、私は彼の後をつけた。中休み。行き先は屋上。


「これのどこが海苔弁なんだよ」彼がくわえていたそれを奪い、自分の唇に挟む。うん、煙じゃお腹は膨れないわね。


24.

自分の顔を加工して手足を加工して胸を腹を腰を加工して加工して加工して、出来上がった私はドコノダレ?


かつてビデオテープと呼ばれた物の、録画データの間に流れたCM。こんな時代もあったなぁと、次の録画データまで早送り。やっぱり今の時代、加工よりカスタマイズよね?


25.

命は落ち葉の下にある。僕は落ち葉をかき分け、それらを両手で救いとる。ふわりふわふわ、浮き上がる命。ふんわりゆらゆら、舞い落ちる雪。命は雪の下で冬眠する。次は春の刻。


命は桜の下で若芽を出す。僕はそれらに水をやりに行く。もう一度この世で生きる、覚悟を見届けに。


26.

なんでもかんでもさよならする、さよならおばけがやってきた。恋文さよなら。思い出さよなら。贈り物さよなら。さよならさよなら、さようなら。


気は済んだ? 被っていた紙袋を剥ぎ取られる。ごめんね、さよなら出来なかったよ。さよならおばけは謝った。墓標の前で、手を合わせて。


27.

僕の前に胡座をかいて座る君。ここから先は通さないよ。セーラー服に鬼の面。腕組みしてまんじりと、僕を見上げる視線が痛い。


その時になったら、私が迎えに行ってやる。それまでせいぜい生きやがれ。面の下で笑う君が、何故僕より先に死んだのか。瞼を開けた今でも分からない。


28.

友人は山羊に似た咳をする。今年も師走の合間に会いに行くと、やっぱり咳が。べえべえ、べえべえ。今年はゆっくり休めと忠告しても、12年掛けで編み上げたマフラーを見せびらかしたいと駄々を捏ねる。べえべえ、べえめえ。さて、Xデーやいかに。


29.

春先。隣家の住人が幻の植物を発芽させた天才と騒がれていた。普通の土と水と肥料で。


どんな植物でも育つ土。特殊交配で生み出した種。植物の育成についての研究書。準備は整った。後は一冬越えるだけ。その時に何故気が付かなかったのか。先に芽が出た方が「天才」なのだと。


30.

汚いから触っちゃ駄目。ほらまた触った。何回言えば分かるの。せっかく綺麗にしたのに。分かった? 分かったら返事は?


あれにさわったら、ママのかおがあかおにみたいになった。こわくてさわらないようにしたら、こんどはこれにさわっておこられた。ねぇママ、汚いってなあに?


31.

噂では、王妃が彼の国の王子に熱を上げているらしい。きっとお顔に惚れたのですよ。側室が王の耳元で囁く。確かにおつむの足りない顔だな。王は鼻で笑うが。


これで暫くは気付かれまい。王妃は恍惚の表情で、上に跨る側室を受け入れる。舌と舌の間に、秘めた場所の香りを浮かべて。


32.

猫色の鉢植えを買った。これで猫好きと猫アレルギーの板挟みから解放される。僕は舞い上がる気持ちと抑えて帰宅した。


次の日、風邪でもないのにくしゃみが止まらない。にーにー。突然の鳴き声を頼りに鉢植えを覗くと、鉢植えと同じ色の子猫が。こりゃ店員に一杯食わさ、はくしゅん!


33.

「こちらお客様ご相談セ……はい、大変申し訳御座いませんでした。お怒りはごもっとも、はい、かしこまりました。確認致しますので少々お待ち下さい」


「ニコラス。あなたが落とした帽子から次々と玩具が出て、玩具屋の収入上がったりだから謝罪しに来いとの事です。どうしますか?」


34.

少女がその手を頑なに拒む理由を考えよ。「好きな相手だから」「羞恥心」「単純に襲われそうだから」「恐怖」「他に別な奴のことが好きで、そいつの所に行きたいから」「逸る気持ち」


「答えは見つかりましたか?」「いえ、まだです」拒まれた掌を握り締め、抱えた膝に顔をうずめた。


35.

「こちらお客様ご相談センターです。はい、いつもお世話になっております。ええ……そうでしたか、毎年ご迷惑をおかけして、はい、かしこまりました。少々お待ち下さい」


「ニコラス。あなたの相棒が今年も泥酔して乱闘騒ぎを起こしたそうです。警察へ引き取りに行きますか?」


36.

目元に鯨が住み着いた。海を悠々と泳ぐ本物とは違い、そいつは人の文句を言ってはよく咳をする。「あいつ馬鹿、ゲホ、風邪ぐらいでへばるから失敗す、ゲホゲホ」自分の頑張りを認めて欲しいのは分かるが、文句を言うより先にやることがあるだろ。「なんだ?」自分を労る事だ。馬鹿。


37.

スマホを修理に出して数日。代用機を家に忘れたせいで、休み時間が暇で暇で仕方がない。ふと左手を見ると、ペンで書いた字がうっすら残っていた。教室を飛び出し、息も絶え絶えに屋上の扉を開けると、あいつの拗ねた顔とご対面。謝るより先に出た言葉は、


「誕生日おめでとう!」


38.

空には白くて丸い時計があって、燕尾服を来た白兎が時計の螺子を巻くんだ。時計には髪の長い女の人の横顔が彫ってあって、時々蟹に見えるんだよ。知ってた?


振り返ると、ママが私に読み聞かせていた絵本を広げて眠っていた。キリキリキリ。螺子を巻く音が数回、小さく響いた。


39.

私という人生を重ね、ミルフィーユを作ろう。間にクリームを挟み、一回、二回。破けていても、曲がっていても大丈夫。瞳から溢れた涙も、粉糖になって生地に降り積もる。丁寧に、丁寧に重ねれば、今年の分は終わり。もうすぐ来年の生地の仕込みが始まる。


来年も、丁寧に生きよう。


40.

とんとんとん。誰かがドアをノックする。出迎えると、疲れきった顔の羊がいた。一刻でも良いので休ませて欲しい。毛皮を震わす羊を招き入れ、お茶の準備をして居間に戻ると。すーぴーすー。毛皮を脱ぎ、長い鼻を投げ出した羊が炬燵で眠っていた。


羊の代役お疲れ様。ぐっすりお休み。