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#twnovel(81~100)


81.

「じい。泣き声が聞こえる」「盛りが付いた雌猫が鳴いているのです。おひいさま」「赤子かと思った。雄を呼んでいるのか?」「さようでございます」「まるで身売り女だな」「追っ払いましょうか」「じい……わらわは何番目の赤子(猫)だ?」「おひいさま」「……すまない。寝言だ」


82.

ミミズ腫れさえ美しい。そう思えるの君だけだ。ハイヒールでできた靴擦れも、首輪の締めすぎでできた痣も。愛している。愛している。君に愛を囁くはずの口は塞がれて涎しか出ないけど、構わない。同じ空気が吸えるなら。君が僕に与える痛みも背に受けよう。僕だけの女王様。


83.

自分なんて死ねばいいのに。私がそう言う度、母は「言うのをやめなさい!」と叫び、私に前向きな言葉を矯正した。行き場所をなくした息苦しさが私を殺しにかかる。違うのママ。本当に死にたいわけじゃないの。ただ、「その言葉なくして、君は生きていけるのかい?」 涙が出た。


84.

「おかあさーん」「なに?準備できたの?」「なんか足の形変わってた」「そりゃあんな変な歩き方してたら嫌でも変わるわよ。そういうとこばっかおじいちゃんに似るんだから」おじいちゃんがいなくなって一年。おじいちゃんの足はもう変わらないけど、私の足は変わり続ける。


85.

「ママ。死ぬってなに?」「夢から覚めることよ」「夢?」「昔の人は自分のいる世界を夢だと考えていたの。ママはママの、舞は舞の夢の中にいるの」「じゃあ舞の夢は叶うんだ」「どうして?」「だって夢の中はなんでもできるし、舞が魔法少女になって、ママを守ることもできるもん」


86.

星々が衝突し、混ざり合い、大小様々な月が生まれた。どれぐらいできたかって、布教用・観賞用・保存用として買えるぐらいと言えば察しがつくだろう。「じゃあ、おほしさまはどこにいったの?」首を傾げる娘。その瞳に住む兎も望遠鏡から僕を見つめ、長い耳と一緒に首を傾けた。


87.

ストローで作ったスプーンの端を咥え、溶けた氷とシロップを啜る。容器ごと飲めばいいのに。勢いよく傾けたせいで、お気に入りの浴衣を濡らしたことがないからそう言えるのだ。泳ぐ金魚が青く染まり、私に苦笑を浮かべた母。あの夜は帰ってこない。空の容器はゴミ箱へ。思い出は私の中へ。


(#書氷/『かき氷』がテーマのツイノベ募集に便乗)


88.

「かあちゃんかき氷おかわり」「駄目。午後から断水だから水出ないし氷もできないよ」「え~」「かあちゃんあめふってきた」「え!?」「……あめじゃなくてこおりがふればいいのに」「ばっちいだろ」「じゃあゆき」「ゆきもあめとおんなじものだよ」「……はやくだんすいおわんないかな~」


(#書氷/『かき氷』がテーマのツイノベ募集に便乗)


89.

万年筆の手入れをしようとした矢先、手元が狂ってペン先が飛んだ。かき氷の中に落ちると、溜まった黒が氷の色を蝕んでいく。嫌な予感。時計を見て慌てて家を飛び出すと、玄関先の彼女と鉢合わせ。「どうしたの?」「歯医者の予約忘れてた」「馬鹿」そうだ、帰りに練乳を買ってこよう。


(#書氷/『かき氷』がテーマのツイノベ募集に便乗)


90.

人間に化ける狸の存在を知った宇宙人は、メカニズムを探るため一匹の狸を生け捕りにした。ワタシニバケテクレ。宇宙人が翻訳機越しに頼むと、狸も翻訳機越しに鳴いた。『化ける』と『化かす』の違いとは何か。回答に悩む宇宙人がキュンと鳴いた瞬間、狸は宇宙船で宇宙へ旅立った。


91.

メーデーメーデー、聞こえますか。月の裏側にいる「わたし」聞こえますか。もしあなたが本当にいるなら、寝ても寝ても寝足りない私を助けてください。天秤が壊れる前に助けてください。私をベッドの中から救い出してください。


メーデーメーデー、エスオーエス。


(#satellitepoem/創作企画「空へ」)


92.

コップに滴る結露で絵を描く。キャンパスはテーブル。丸や四角を描いていると。「ごめん待たせた」「ううん。待ってない、けど」指に付けた水滴を、相手の唇へ滑らせる。面食らった顔に吹き出して、「ふふふ。じゃ、行きましょうか」椅子から立ち上がり、バックを手に歩き出す。


93.

「眠れぬ君に、光を」彼女が両手を広げた瞬間、祭壇を通じて光が空へ飛んでいく。彼女はこの儀式のどさくさに光をほんの少し集め、小さな小瓶に溜めている。小瓶が一杯になったら、彼女は心の奥で呼んでいる『君』に贈るんだ。僕のことじゃない。幼なじみに、そんな資格はないもの。


94.

細い試験管用のスタンドに、無色の液体を抱える試験管たちが入っている。私はそのうちの一本に、別の液体を垂らした。無色はピンクに。もう一滴垂らすと、ピンクは青に変わった。先輩の一言で勝手に舞い上がってた頃の私みたいだ。「気持ち悪い」私は流し台に試験管の中身を捨てた。


95.

凶器はたった一言だった。「私は、たぶん、君のために生きてやらない」長い言葉の羅列の、たった一言。君が空けた『たぶん』の余白に、僕の期待を埋めたい。駄目だ。この凶器で君は死んじゃ駄目だ。『死んでたまるか』じゃなくて、『生きてやらない』と言った、強がりで優しい君は


(創作SS祭り第39回/お題:凶器はたった一言だった。)


96.

「最近のお客様は、肉厚でやわらかいものばかりご希望なさいますね……いえ、人様の好みを悪く言うつもりはごさいません。わたくしも仕事ですから。しかし、わたくしは薄いものも硬いものも、偏りなくお客様にお勧めしたいのです!偏食なんて言語道断!」本ソムリエは今日も熱い。


97.

冷たくなる太陽。纏うフレアが冷気を帯びていく様子を、娘は冷凍庫のガラス窓からじっと眺めていた。「ぱぱ。まだ食べられないの?」「うん」「あとどれくらい?」「百年ぐらいかな」「……じゃあ待つ」私はしぶしぶ応えた娘の頭をぐりぐり撫でる。「偉いぞ、さすが私(神)の娘だ」


(創作SS祭り第40回/お題:冷たくなる太陽。)


98.

景色が白く染まった日。私は彼の顔を見ることができなくなった。「にしても落ち着きすぎじゃね?目が見えなくなったってのに」「へぇ、あなたには私が落ち着いて見えるんだー」「えっちょ……お前」「あはは、ごめんごめん」私は笑いながら、左手の薬指に嵌めてくれた指輪を撫でた。


(創作SS祭り第41回/お題:景色が白く染まった日。)


99.

ありふれた恋がしたかった。世間の言う『普通』から恋の定型を作って、彼女を型に嵌めて、上手く結婚にこぎつけ……ようとした。フラれたのが失敗した証拠だ。でも俺だって、最初は結婚なんて考えてなかった。それがどうしてこうなったのか。ただ、恋がしたかっただけなのに。


(創作SS祭り第43回/お題:ありふれた恋がしたかった。)


100.

ありふれた恋がしたかった。というのは親への建前。本当はこんな恋がしたかった。「僕と付き合ってください」「でも君、人間でしょ」「種族なんて関係ないです。あなたの綺麗な羽根を見た時からずっと」「……羽根が綺麗な孔雀は雄だって知ってる?」「それでも好きなんです!」


(創作SS祭り第43回/お題:ありふれた恋がしたかった。)