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#twnovel(01~20)


01.

「大嫌い……だいきらい、よ」綺麗な顔をくしゃりと歪め、憎しみを吐き出した君の、後ろにそびえる校舎は塔のように高く、窓に当たって乱反射した夕日は、肌を焼く熱さもなく、体は冷えきって汗も出ない。立ちすくむ僕に出来ることは、君が描いた涙の軌道を目で追うことだけだった。

 

02.

月を探しにきたという少年を、店主は怪訝そうな顔で見た。数百年ぶりに、地球と太陽に食べられた星の名前を聞いたからだ。店主は尋ねた。なぜ月のことを知っているのかと。少年は答えた。数百年ぶりに冷凍睡眠から目覚めた祖母が言ったのだと。「月が、綺麗ですね」

 

03.

あの日の月を待っている。君と「初めまして」をした、あの月を。君と「さよなら」をした、あの月を。約束なんてしていないから、私は毎晩、あの日の月を待っている。あの日の月が、君と「こんばんは」をする月になるまで、私は何度も口にする。「月が、綺麗ですね」

 

04.

「知らない知らないあたし知らない!」「お前しかやる奴いねぇだろ」「だから知らないって!」「どした?」「こいつお前の背中に『下半身未開封』って書いた紙を」「すまんオレだ」「おいこら」「だからその子に謝れ」「……」「ごめん」「下半身未開封」「うっせ!」

 

05.

滑舌の悪さは自分で分かっている。文章を読んで噛むならまだしも、普段の会話でも噛みまくりで。「噛み噛み王子」のあだ名は伊達じゃない、なんて偉そうに言っている場合じゃない。この台詞だけは絶対、絶対噛まずに言うんだ!「つ、月が綺麗てふね!」「ぷっ…ふふ、そうですね」

 

06.

焼きとうもろこしを頬張る俺の隣で、ビール片手に焼き鳥を食べる妻。夫婦になって何十年ぶりかの夏祭り。妻が空を見上げ、初めて夏祭りに行った時と同じ台詞を言う。「月が綺麗だねぇ」照れ屋な俺は、あの時と同じ返しをした。「何言ってんだい。月が綺麗なのは当たり前だろ」

 

07.

「嫌いなのあたし、そういう不意打ち」彼女の瞳に猫を見た。敵を睨め付け、小さい牙を剥き出す、野良猫の敵がい心を。「不意打ちじゃ、なかったら?」僕は野良猫に煮干しを差し出す。「……考えなくもない」野良猫は煮干しを銜えるついでに、小さい牙で僕の指を噛んだ。

 

08.

「今日のテストどうだった?」「ヤマ軒並み外れた」「マジ?俺はバッチリ」「お前そうゆうのだけは得意だよな」「俺の頭の中にいる彼女が教えてくれたんだよ」「きっも。せめて『俺のゴーストが囁いた』ぐらいゆえよ」「なにネタそれ?」「……いや、なんでもない」

 

09.(ツイノベの日:猫)

「なにこの嫌がらせ」「なにが」「普通、茶髪に黒い猫耳カチューシャ付けさせる?」「地毛黒だから無問題じゃん」「地味に『黒に戻せ』って言ってんの?」「俺、まだら猫が好きなんだよね」「話逸らすな」「まだら猫な君が好きー♪」「歌うな!」

 

10.(ツイノベの日:猫)

あれは、人から猫に体を換えたばかりの頃だったか。一人の少女が路地裏で泣いていた。体を換えるお金がないのか、まだ人だった少女は、私を見て「可愛い猫ちゃん」と笑った。私は人だと主張したかったが、少女の笑顔には変えられない。私は猫のように「にゃー」と鳴いた。

 

11.(ツイノベの日:ラジオ)

ラジオのダイヤルを適当に回していた時だった。マイナー好きの私でも聴いたことのないグループの、透き通った旋律。力強い歌声。今にも折れそうな儚さと生を尊ぶかのような逞しさにゾクリとした。もう一度、もう一度聴きたくて、今日もラジオのダイヤルを回す。彼らの復活を願って。

 

12.

上手く着地が出来ない。スピードも踏み込みも完璧なのに、尻餅を付いたり、後ろ手を付いてしまう。「先生。走り幅跳びで上手く着地が出来ません、どうしたら良いですか?」「お前イメトレばっかでほとんど練習してないだろ。まずそのビビってるようにしか見えない体育座りをやめろ」

 

13.

大人になりたかった。早く大人になりたくて、苦いコーヒーを飲んだり難しい新聞を読んだりした。なのに、コーヒーに映った大人の自分は清々しいくらいの笑顔だった。大人なのに、なんでそんな顔が出来るんだろう。思わず自分の顔を触った。子供の自分は今、笑っているだろうか。

 

14.

あの頃の僕が笑っていたように、あの頃の君も笑っていたのだろう。当時の偽りだとしても、過去の美化だとしても、君が笑っていたという思い出は、今もまだ僕の中にある。

 

15.

指に鋭利な感覚が走った。見れば、めくっていた本のページで切ったらしい。 塞がらない切り口が、赤色で満たされる。まるで穴から湧き出る水。「赤色の噴水って、良いかも」口に含むと、鉄の味がした。「…これじゃあ、赤色の噴水が出来ないわけよね」思わず声が拗ねた。

 

16.

窓際の雨粒が泣いている。怖くないのに「怖い」と言われ、その言葉が痛くて堪らないらしい。刃物で切りつけるような鋭さに、みんな怖がっているんだよ。でも大丈夫。みんな優しい君も知っているから。指先で窓際の雨粒に触れると、ぷっくりした赤ちゃんの頬を撫でたような気がした。

 

17.

「ミーコ、きょうのおつきさまはどうしてあかいの?」「月蝕だからさ。月が食べられるんだよ」「たべれちゃうの?」「ああそうさ」「ふーん。おいしそうだもんね」「そうかい?」「うん!だっておはぎみたいだもん!あと、おせきはんのおまめ!」「フフ。全く、坊やのお馬鹿さん」

 

18.

ついてない日は足がもつれる。原因はほどけた靴紐。いつからほどけていたかは覚えてないが、昔の自分がついてない日を作ったと分かれば怖くない。昔の自分、今に見てろよ。きつく結び直して歩き出す。今日をついてる日にすべく。

 

19.

ステンドグラスが割れた。君との思い出が乱反射して辺りに散らばる。跡形もなく砕けたと思ったのも束の間。ガラスは色とりどりの鳥になり蝶になり鯨になり雲になり。不格好に飛んでいく姿はまるで。

 

空を飛ぶのが夢なんだ。小さい頃の君が弾けるように輝いて、眩しくて、涙が出た。

 

20.

キスも男との交わりも飽きてしまった。学生時代の、禁忌を犯したようなときめきが欲しい。ときめかないのは大人になったせいよ。唇を尖らせていた君が、タイムマシンを使って若返るなんて。

 

僕と出会う前の君が舌っ足らずに甘えてくる。待って、ロリコンも立派な禁忌でしょ?